2008/07/07
キーマンに聞く002
(株)東急エージェンシー/ODECO実施委員
小柳晶嗣さん

「CSRへの取り組みで忘れてはいけないもの」

(株)東急エージェンシー 人事局 人事部 部長 / ODECO実施委員●小柳晶嗣


しばらく前の新聞記事に思わず考えてしまう世論調査の結果が載っていた。いまの日本には「信用できない企業が多い」と思っている人が60%にも達しており、「信用できない人が多い」も64%であると言うのだ。度重なった食品の偽装問題の影響もあったのだろうと思うが、それにしても、「企業・人を信用できない人が6割」にはさすがに驚いた。


本当にそうだとすればちょっと深刻だ。信頼を失うということは人であれば友人を失うこと、企業であれば顧客を失うことにつながる。また、企業といっても、つまりは人の集まりであるわけで、これほどまでに人間相互の信頼が弱くなっている社会とは、なんとも寂しい社会だ。

自戒をこめて書くが、残念ながら、時として企業の論理や経済合理性というものは、いろいろな大切なものを壊してしまうことがある。人にとって「人とのつながり」が大切なように、企業も人や自然とのつながりはいちばん大切な基盤であるはずで、私たちは心の深いところではそのことを理解しているのだが、日々の忙しい生活の中で、ついつい忘れてしまうことがある。

競争に勝つことで、お金を稼ぐことで、所有することで、自らを満たそうとしてしまい、証明しようとしてしまい、残念なことに、私たちの日々の暮らしを包んでいる、成り立たせている、人と人とのつながりや、海や山などの自然を壊すことに、図らずも、多少なりとも、加担している。また、私たち企業で働いている人間そのものも、時として人がつくる組織の論理の中で身動きが取れず、苦しくなることもしばしばだ。

どんなに会社を大きくしても、売り上げやシェアが増えても、利益や株価を上げてみても、結果として自然を壊したり、地域を壊したり、人と人との温かいつながりを弱めたり、ひどい場合には心身が病むようなやり方を続けていたら、三十年経った後に、子どもや孫から文句を言われることは間違いない。いや、文句で済めばよいが、おそらくは私たち自身が深い後悔をすることになるのではないか。

従って、最近の各企業で見られるコンプライアンスの強化や、CSRへの積極的な取り組みは極めて重要だ。担当される方々は業務が増えて大変であると思うが、三十年後の子どもや孫に誇れる仕事であると思う。細々とした実務の積み重ねかもしれないが、その積み重ねが世の中を少しずつ変えていく力になる。

また、CSRもコンプライアンスもまだ歴史が浅いため、これからも様々な試みがなされていくと思うが、基本は「人間相互の信頼を深めること」と「子どもたちや孫たちが安全に暮らせる環境の創造」であると思う。しばしばCSRやコンプライアンスが語られるときの文脈が「競争力の強化」になることがあるが、ここには少し注意が必要だ。

むろん企業にとって競争力は切実な課題である。しかしながら、競争力や短期的な経済合理性の観点のみからCSRやコンプライアンスを捉えてしまうと、その本質を見誤りかねない。充分な競争力があればCSRは適当にやっていればよいという意識が生まれてしまうかもしれないし、私ごときがこう書くのはかなり気恥ずかしいが、本来、コンプライアンスにしてもCSRにしても、お金には換算できない人間への愛(フィランソロピー)が基盤にあるべきと思うからだ。

(『月刊フィランソロピー』2008年7月号に「私のフィランソロピー」として発表されたものです)



大手広告代理店の人事部長である小柳氏は、
多くの新入社員、社員と接する日々の中で、
将来、社会で必要とされる子供のチカラについても、大きな関心を寄せている。
また、平成18年度から文科省で採択されたオンデマンド型教育コンテンツ・プラットフォーム<ODECO>実施委員会の委員も務める。
今後も、社会の現場からの貴重な意見をうかがっていきたい。


※月刊フィランソロピー(発行:社団法人 日本フィランソロピー協会

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