デジタルメディア研究所研究員・東大法学部卒業後、都庁勤務などを経てIT関係のライター、翻訳者。著書に「データベース・電子図書館の検索・活用法」(東洋経済新報社・下中直人、市川昌弘と共著)、「 ソーシャル・ウェブ入門入門 Google, mixi, ブログ…新しいWeb世界の歩き方」(技術評論社)など。個人のブログはSocial Web Rambling

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2007年12月03日

Kindleの衝撃―eBookのiPodになるか?

AmazonのeBookリーダー、"Kndle"の衝撃がじわじわと広がりつつある。当初あかぬけないデザインを嫌ってだいぶ懐疑的だったTechCrunch編集長のマイク・アリントンもなぜか宗旨替えして「eBookのiPodになるかも」と評価し始めている。

しかしiPhone同様、こちらで利用できるようになるのは(いろいろなシガラミの関係で)先のことになるらしく、日本でのマスコミ(ブログも含めて)の反響はあまり大きくない―というようりまるで少ない。iPhoneの100分の1もなかったような気がする。発売元がAppleではなかったせいだろう。

しかし実際にはiPhoneは要するに携帯電話のスグレモノにすぎない。Kindleの影響と利用の範囲はそれどころではない。

実はOn Bookの市川編集長が2006年12月にODECOのメルマガに発表したKindleについての記事がほとんど唯一のまともな分析だ。ちなみに2006年というのはタイプミスではない。1年前、Amazonが計画してる新しいeBookリーダーのスペックが流れたとき、その情報だけを元にして書かれた記事だ。

ところが、Kindleが実際に発売された現在読んでもそのままで参考になるので、1字1句、そのまま再掲する。

Amazonが放つ、次世代電子ブックリーダーの衝撃

市川昌弘 2006年12月

 世界最大の電子書店である米Amazonが、電子ブックリーダーを開発中だ。情報の出所は、ガジェット系の情報サイトとして人気の「engadget.com」で、認可を得るためにFCC(連邦通信委員会)に提出したと思われる製品写真と、製品スペックが紹介されている(http://www.engadget.com/2006/09/11/amazon-kindle-meet-amazons-e-book-reader/)。

 電子ブックリーダーとは「電子書籍」と呼ばれるコンテンツを閲覧するための小型の情報機器で、日本では「読書端末」とも呼ばれる。イメージとしては“本が読める電子手帳”のようなものだと思えばよい。液晶ディスプレイにページを表示し、ボタン操作で読み進めていくというのが基本的な使い方である。

 本の“中身”にあたる情報は、「電子書籍」と呼ばれる電子的なデータとして提供される。そのため、メモリー(記憶媒体)の容量が許す限り、1台の電子ブックリーダーで、何十冊でも何百冊でも好きなだけの本(電子書籍)を持ち歩くことが可能だ。また、紙と違ってかさばらないので本棚も不要になる。さらには、印刷代が不要になる分だけ電子書籍の価格も安価になることが期待できる……等々、メリットは尽きない。ある意味、夢の商品といえる。

 ところが、そのスマートなコンセプトとは裏腹に、電子ブックリーダーの普及はなかなか進んでいない。2004年には松下電器産業が「凜屮奪」を、東芝が「SDブック」を、ソニーが「リブリエ」を発売したが振るわなかった。確か、米国でも数社から商品が発売されたはずだが、とても成功とはいえない状況だったと記憶している。つまり、ビジネスとしては立ち上がらず、勝者なき市場となっていたのである。

 失敗の原因はいくつかある。まず、(1)価格が高いこと(電子ブックリーダー自体が高価な上、電子書籍も紙の本と価格が変わらないものが多い)。次に、(2)電子書籍の購入が意外なほど面倒なこと。さらに、(3)ユーザーが持っている各種データの表示や再生にはほとんど使えないこと(たとえばPDFの表示ができればビジネスや教育に便利だが対応していない)。特に2番目は致命的だ。

 電子ブックリーダーで読むために、何か1冊電子書籍を購入するとしよう。その場合、(1)インターネット上の電子書店にパソコンでアクセスして、電子書籍をダウンロードする。そして、(2)パソコンにダウンロードしたデータをメモリーカードに転送し、(3)そのメモリーカードを電子ブックリーダーにセットすることで、電子書籍の閲覧が可能になる(電子書籍のデータが入ったメモリーカードを購入する方法もあるが、扱っている店舗があまりにも少ない)。1度やってみるとわかるが、これはかなり面倒だし、パソコンが苦手な者には明らかに難しい作業だ。これでは普及など望めない。

 では、どうすればいいのか? 答えはすでに我々の目の前にある。

 ひとつ例をあげよう。同じ電子書籍でも、電子ブックリーダー用ではなく、携帯電話用の市場はここ数年で急成長している。携帯電話自体の普及率や(サイズの)手軽さもあるだろうが、何より「携帯電話だけで(電子書籍の)購入から閲覧までが完結している」という簡便性が大きい。これが、パソコン経由で電子書籍をダウンロードして、携帯電話に転送して閲覧せよという仕組みだったら、絶対に普及していないだろう。

 もうひとつ例をあげよう。近年急成長した情報家電製品のひとつに、デジカメ用の小型プリンタがある。これはどういう仕組みかというと、パソコンを不要にしているのだ。デジカメを直接プリンタにつなぐだけで写真プリントが実現できる。だから、シンプルでわかりやすい。なおかつここが重要な点だが、パソコンを持っていない者でも、デジカメとプリンタさえあれば写真プリントができるのである。

 ここから言えるのは、電子ブックリーダーを成功させるためには、「パソコンを外して、それだけで使える独立した仕組み」の実現が不可欠ということだ。パソコンありきで構築されたシステムの使いにくさを喜ぶユーザーはいないし、実際にパソコン抜きでもやれる時代になっている。これこそが「次世代の電子ブックリーダー」のイメージだろう。

 実は、冒頭で紹介した、米Amazonが開発中の電子ブックリーダーで注目すべきなのが、この「パソコン外し」を実現している点だ。engadget.comに掲載されているスペックを見ていくと、ひとつ注目すべき点がある。通信機能として、何と「EVDO(Evolution Data Only)」をサポートしていのだ(携帯電話に詳しい人なら、これだけでピンとくるだろう)。

 EVDOは米クアルコムが開発したデータ転送速度最大2.4Mbpsの高速通信機能で、日本ではauの「CDMA 1X WIN」で採用されている。着うたフルや着ムービーといった、重たいコンテンツがサクサクとダウンロードできるのは、EVDOのおかげなのである。このEVDOを電子ブックリーダーに搭載すれば、いつでもどこでもインターネットにアクセスし、電子書籍を直接購入できるようになる(当然、電子書籍を購入する先は、米AmazonのWebサイトということになるだろう)。

 余談だが、米Amazonが本気で電子ブックリーダーを売り出すとしたら、出版社と直接交渉し、電子書籍のダウンロード販売に乗り出すと推測される。電子書籍のデータをわざわざメモリーカードに入れて販売する形態では、流通業者(取次)が必要になるが、それが不要になるからだ。そのため、出版社側の利益は紙の書籍よりも大きく設定することができるし、流通コストがかからない分、電子書籍の価格はかなり低く抑えることが可能になる。これは、「パソコン外し」を追求すると「流通外し」が実現され、それによって新しい産業構造が出現することを意味している。だからといって、紙の本がすぐになくなるわけではないが、このインパクトは大きい。

 さて、ここからがいよいよ本題である。この米Amazonの電子書籍戦略(?)だが、実をいうと教育分野にそのまま持ち込んでも、大いに有効なのだ。たとえば、学校に電子ブックリーダーを導入し、生徒に1人1台で配布する。そして、教科書だけでなく、参考資料や課題のプリントなど、従来紙でコピーし配布していたものを、電子書籍ならぬ「電子教材」として作成し、必要なものはダウンロードして使うのだ。

 電子ブックリーダー導入の最大のメリットは、いちいち紙をコピーして配布する手間とコストが削減できる点だ。また、ODECOのような仕組みを使って、電子教材を共有するサーバを構築すれば、全国の教育機関で作成した、さまざまな電子教材の交換・共有が可能になるだろう。これは、コスト削減以上に価値のある仕組みとなるだろう。

 携帯電話(の通信機能)のよいところは、日本全国どこにいっても、教育機関のあるところなら、まず確実に圏内だということである。学校にパソコンを導入して1人1台を実現などと言い出すと、校内にLANのネットワークを引くために、インフラの整備が不可欠になる。しかし、携帯電話の通信機能を使うのであれば、そのような面倒はいっさいかからない。管理者もいない、予算もないという教育分野には、まさに好都合だ。

 また、パケット定額制や「○○割」といった料金制度の普及によって、コスト面でも追い風が吹いている。学校向けに特別に安価なパケット定額制を作らせるとか、「学校割」のような制度を設けさせれば、通信費はいくらでも下げることができるだろう。行政との連携が必要だが、教育予算の中で格安な帯域を購入し、それを学校単位でシェアするという考え方はアリだろう。

 教育予算が削減の一途をたどっている、そんな状況だからこそ、その中で最大の効果を求めるために、ITを活用すべきだ。そもそも、現在の日本の法律では、携帯電話搭載の電子ブックリーダー自体が、携帯キャリア以外からは出せないのだが、こういう制度面で大きな改革が必要な時期に差しかかっている。無線通信機能を搭載した電子ブックリーダーは、そのための起爆剤となる可能性を秘めていると思うのだが、いかがだろうか。

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» shadygrounds
2008年04月11日 17:02

From the beginning your blog seemed pretty dull for me. But now it keeps getting better. THIS post is just AWESOME!

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