2.出版業界支援の建白書 2009-10-25

前略・鳩山由起夫様

 今年の夏、前政権の麻生さんが「エコポイント」なる施策を実施した。目黒の喫茶店で昼下がり、年金生活者と思われる老人が二人、話していた会話が耳に入ってきた。

「エコポイントなんてバカバカしてことやりやがって。あんなので儲かるのは、自動車メーカーとか家電メーカーとか、大企業ぐらいのもんだ。大企業に入った利益は外に出てこないさ」
「あとは大型家電店が儲かるな」
「それに、エコカーとか大型冷蔵庫なんかをポンと買える人たちに税金を戻してるわけだろ。オレたちみたいに、そんな贅沢商品を買う余裕のない連中にはまるで関係ないよな」

 なかなか鋭い床屋談義に聞き入ってしまった。まったくそのとおりである。その会話には加わらなかったけど、もし加わっていたら、僕はこう発言するだろう。
「エコロジーという美名も問題ですね。どう考えたって、エコカーに買い換えるより、今のってる自動車を丁寧に乗り続けた方が、新しい自動車を生産するより、どれだけCO2削減に貢献するか分からない」と。

 こんな自明のロジックを、知らぬふりして、民主党の環境大臣がエコポイントをエコの立場から推進したいと言ってる。なんなのだろうか。

 自動車や家電のような国際競争で頑張ってた企業がリーマンショックで一気に内部留保が減ったのだろう。しかし、それでも内部留保はあるのだと思う。そんな余裕のない業界がある。出版業界である。なんで日本の出版業界は、政府に業界としての支援を要求しないのだろうか。政府に要求することが、「表現の自由」を脅かす行為だと思っているのだろうか。

 公立高校の授業料の無償化がはじまるという。教育費用の国庫負担は、僕は賛成ではない。それは、コンテンツ・ビジネスも同じだけど、タダで提供すると、感謝されるどころか、ありがたみを感じなくなるからだ。親がコストを直接負担してるから、子どもたちの教育環境を注視しているのである。タダになって、親たちのモラルハザードが起きないか心配する。

 かつて、小学校の教科書が無償配布になった。公明党が強力に主張した政策である。このことに批判する人は少ないだろうが、僕は、内心疑問だった。教科書が無料になったから、給食費を払わない親が出てきたんだと思っている。何かをタダにしたら、あれもこれもタダにしろと要求してくるだろう。

 こんなバラまきをするなら、税金を一律に下げてもらった方が、どれだけ効率的だろう。それをしないのは、国家が国民を信じていなくて、税金を安くすると働くなって国力が落ちるとでも思っているのだろうか。働くだけ働かし、とれるだけ税金をとって、とった税金の余力で社会に還元しようという施策は、根本的におかしい。取れる税金が大きいほど、官僚たちの権力も大きくなる。企業が売上げ高の拡大を目指してきたように、国家も税収の拡大を目指してきた。この拡大主義は、終わるのである。

 さて、そういうことは未来へ向けての話で、今、現実的に税金が教育の現場に使われるのであれば、ぜひ図書券を子どもたちに配って欲しい。フランスのサルコジ大統領は、高校生に新聞を無償で配布するという施策を実施した。そのことによって、若い世代に社会の動きを感じとってもらいたいという気持ちと、衰退する新聞業界に対するサポートの側面もあるのだろう。

 出版業界は、小さな業界である。ただ、その関連職種は多岐に渡っていて、用紙業界、印刷・製本業界、流通・輸送業界、編集・デザイン業界などに広がっている。そして、何よりも子どもたちに本を提供することは、日本のこれからのために、とても有力な栄養補給である。また、現状のように「売る」ことが目的になっていて、誰のために本を作るのか分からなくなってしまった出版業界にとって、子どもたち(未来を築く人たち)向けての本を作るという、本来の目的意識を思い出させるだろう。

 幸い、日本の子どもたちの読書傾向は向上している(博報堂の調査による)。これは、朝の読書運動の広がりと、漢字検定協会の功績だと僕は思っている。しかし、学校図書館の充足率については、大都市圏と地方との間に、大きな格差が生まれている(文科省の調査による)。僕たちは、この格差を是正するために、ある企画を推進しているが、それ以前に、まず、やって欲しいのは、政府による出版業界の救済策である。自民党政権であれば、特定の傾向の本を購入させられる不安があったかもしれないが、現在の鳩山政権であれば、そんなバカなことはしないだろう。

 現状は、地方行政の悪化で、図書購入費の予算が別の科目に流用されている問題がある。図書購入費を、教育と産業の側面から充実する必要がある。新聞・出版業界がこのような提言すると、政府は再版の撤廃問題とからめてくるだろう。それも一つの大きなテーマだから、これからの新聞・出版業界がどのように成立するのかを考えていく必要があるだろう。

 電子ブックも、まずは政府支援で公立学校への普及が、権利関係の問題を含めて、一番、協議しやすい環境ではないかと思う。子どもたちが本を読む環境を作ることが、将来の出版業界の活性化につながるはずだ。

■提案概要

◇学校単位で、図書購入費の割り当てをする。
◇個人に図書券を配布すると、換金などの恐れもあるので、学校単位で、生徒から希望図書を提出してもらい、学校で購入する。生徒が読んだあとは学校図書館に保管。
◇購入は、それぞれの学校付近の書店扱いとしてもらう。書店に対する救済策も緊急に必要である。
◇緊急措置ではなく、恒常的に実施していただきたい。

●橘川幸夫