出版の未来 (2−2) 2009-11-06
(本稿は、前の原稿の続きです)
3.新しい「広告」のあり方と、広告代理店の未来について
11月6日、STARBUCKS ART MAGAZINE「スターバックスのある風景」が革命的に発行された。流通は主にコンビニ。市原織江さんの写真集。この出版の何が革命的かというと、定価600円で、スターバックスで600円分のコーヒーセットが飲めるビバレッジカードと一体形となっているということである。流通は主にコンビニと一部書店。
これまでの出版物であれば、広告を出稿するか、まるごとタイアップであれば制作費負担とか何冊買い取りとかいう手法があった。でも、これではビジネス的には出版社にしかメリットがないし、出版社はクライアントの下請け作業的な立場になる。
今回の企画のポイントは以下。
1.クライアントと提携。
2.読者は写真集を購入すれば、その価格だけスタバでコーヒーが飲める。スタバでコーヒー飲みたい人に、写真集をプレゼントする形になる。
3.クライアントは広告宣伝費の出費ではなく、コーヒーの原価だけの負担で済む。自社商品のサンプリングとすれば、販売促進費となる。
4.出版社にとってみれば、広告宣伝費をもらわなくても、本の売れ行きが増大するので、ビジネスとして成立する。
5.雑誌に広告が入っても書店・取次には無関係だが、この方式であれば、売上げが上がるので、流通にとってもメリットがある。
など
今回の企画はクライアントの意向とアーティストの表現が高度に合致した写真集になっている。今後は、出版社が独自の企画を立ち上げ、販売で収益をあげたいとすれば、さまざまなクライアント提携が可能になる。例えば、クライアントが、ある特定の層に対して販売を拡大したい時に、その層にあった出版企画を提案し、広告費用の請求ではなく、現物での読者サービスを要求することが出来る。制作・販売を広告を主体で考えると、内容そのものが広告主のコントロール下におかれやすいが、この方式であれば、クライアントが出すのは販促費なのでアーティストはクライアントの細かい指示に左右されることなく、高度な表現の場が担保される。出版社が独自に制作した表現物に、クライアントが自社利益のために提携するという考え方が浸透すれば、関係は「平等」なものとなるだろう。
新聞でも雑誌でも、本来は販売収益が主体で、広告は「おまけ」収入のようなものであった。それが日本の高度成長のラインに合わせて、広告収入が増加し、販売収入と広告収入の比率が逆転した。今、旧来メディアが不安状況の中で問われているのは、もういちど「販売収益」を主体としたメディア作りを追及することではないか。
この企画は「読者」「出版社」「流通」「提携企業」いずれもにメリットがある企画である。ただし、広告出稿がないので、広告代理店は介在しにくい。それをやってしまえば、旧来型のタイアップ本と変わらなくなる。広告代理店が追及すべきは、「代理」であることをやめること。すなわち、版元になって、読者にアピールする出版企画を考えた上で、クライアント営業を行うべきだ。あらゆる局面で「代理であること」を排除するのが、インターネット時代の大きな流れである。
日本社会のこれまでの成長・拡大は、製造業やサービス業の拡大であり、その拡大に寄与したのが広告代理店であった。その成長・拡大路線が限界に来ている。また、情報の流通についても、テレビや新聞・雑誌など、メディアの数が限定的であったマスメディアの時代であれば、メディアの広告スペースを独占的に確保することによって、広告代理店はマージン利益を確保することが出来たが、アフターインターネット(AI)の時代においては、メディアの数は無限であり、スペースを独占することは出来ない。広告の役割と意味が大きく変容しつつある。
日経新聞によると、今期のマクドナルドの経常が25%増と大幅に向上とあり、その要因は、コーヒーの無料サービスと、広告宣伝費の圧縮というような記事があった。イメージ広告の時代の終焉が始まったような気がする。企業もかつての牧歌的な成長の時代のように、漠然とした商品告知や企業イメージの向上のために広告出稿するようなことはしなくなるだろう。税金対策を広告出稿で処理するような企業体質では生き延びられなくなる。自社商品の情報普及には、インターネットの活用と、直接、自社商品に触れてもらう機会を増大させるサンプリング広告の比重が増えるだろう。企業とユーザーが直接、会話するような広告の時代が始まっている。
参考記事
▼ガジェット通信(モデル・座高くん)
▼スタバ本の企画については、僕の発案ではありませんが(笑) こうした案件の企画を検討されたい方は、考え方と手法を理解した上でないと効果的に実現出来ないと思うので、とりあえず橘川までご相談ください。